最近の徘徊

近頃、何度か通った祐天寺某店。
ちょっと調べれば店名などすぐにばれてしまうのだろうが(有名店だし)、やはりなんとなくはばかられるので、今日は、基本、店名は伏字にて。

もともと、それほど飲み屋についての情報収集に熱心でもなし、太田さんやら、吉田さんやらの著作や他人のブログを元に、有名店を虱潰しにするようなコレクター気質にも乏しい(いや、横目でちらちら見たりはしてますよ)。

普段の飲み屋なんて、家や職場からほど近く、そこそこ安くて、程よく気が利いて、お互い邪魔にならない程度の気遣いができる店が、1、2軒もあれば十分だと言う性質である。
むしろ、そういった必然性がない飲み屋にのこのこ出掛けて、地元の常連さんに迷惑をかけるようなことは恥ずべきことだと常々考えている。

ただ、酒食の趣味が似通った方から強く勧められると、そこが、それほど自分の行動範囲から遠く離れていなければ、割と気軽に足が向く。
もともとは嫌いじゃないのだけれど、やはり、自分なりの流儀と言うか、そういうものをもって、飲み食いをしたいのである。

というわけでその店を教えてもらったのは、自由が丘「T」の常連さんからで、何度か親しく話させてもらって、昨年末、突発的な忘年会を、やはり自由が丘のもう一軒別の「T」というお店でさせてもらったときのことだった。

そもそも緑ヶ丘の「ドスコイ酒場・ちゃんこ芝松」というちゃんこ料理の有名な店の焼き鳥が妙に旨い、という話が出たときのことだ。
その店の親戚筋が、祐天寺にホルモン焼きの店を出していて、芝松同様の「カクテル」(焼酎7をウィルキンソンジンジャーエール2とビール1で割ったもの※比率は当方推定)も出しており、ホルモン焼きや煮込みもめっぽう旨いのだと教えられた。

後日調べてみると、開店はなんと、平日15時半。しかもその時間の前に開店待ちの列が出来る。
更に驚きは、閉店時間。
なんと19時には閉まってしまうという。
そういえば、雑色の「三平」もそんなような話だった。

平日、就業時間を終えて、どんなに急いで向かっても、祐天寺に着くのは18時近いはずで、その時間に行ってもあまり面白いこともなさそうだ。

機会を狙って、ぜひ、くちあけの客となってみたいと思っていたが、年明け早々、早速好機が訪れた。

渋谷近辺で、15時ごろに、ぽつんと時間が浮いた。
渋谷から祐天寺までは東横線で10分もかかるかかからないか。
年明け、最初の週ということもあり、さして仕事も逼迫していない。
こうなったら、行くしかないだろう。

職場にゴニョゴニョと電話を入れて、いざ、祐天寺へ。

祐天寺には、以前、友人が住んでいて、よく飲みに出掛けたものだが、駅に降り立つのは、10年ぶりぐらいか。

目指す店の前に難なくたどり着いたのは、15時10分ほど。
なるほど、既に開店待ちの先客が6、7名、列を作っている。
年恰好は、さまざま。
賀詞交換会帰りの営業マンといったところのダークスーツ姿の二人連れ、リタイア済みと思しき、50代後半〜60代の近所の飲み仲間数人、「さてはオレの苦手なマニアか!?」とこちらをたじろがせる、おそらく夜勤明けか、非番の運用系SEらしき中年男。

自分のことを棚に挙げていいたい放題書いているが、そこに加わる僕も、似たか寄ったかの風体。

まだ日も高い住宅街の一角にこれらの人々が、行儀良く並んでいると言うのも、かなり滑稽な姿のはずだが、行過ぎる近所の人々には馴染みの光景のようで、特にとがめるような視線を感じることもない。

15時半ちょうどに律儀に暖簾が出され、店に招じ入れられる。

まずは生ビール。煮込み。
年明け最初の営業だったようで楽しみにしていたレバ刺しは入荷しなかったとのこと。
煮込みは、芝松のそれとほぼ同じ味。
焼き物は、チレは脾臓、ヒモのスタミナ焼きは部位を忘れてしまったが、にんにくなどの効いた辛目のしょうゆ味。シビレは牛の横隔膜。脂がこってりとしていて旨い。こちらは塩。

初めて入る店では、腹と懐が多少苦しくなってもなるべく、多くのものを飲み食いするようにしている。
次回から通うときの指針を作りたいのだ。
恐る恐る、ちびちびと頼んでいては、自分なりのその店との付き合い方を確立するのに、無駄に回数をかけることとなる。

ということで、その日出ていた焼き物の殆どを平らげて、おかわりにお約束の「カクテル」とレモンサワーを飲んで、支払いは4千円ほど。

決してこの種の店としては安くはないけど、対応は丁寧だし、客筋もいいし、何より清潔なのが良い。

と、満足して、店を辞した翌々日の土曜日が馬鹿に冷え込む日で、一日中寒さに震えていたものだから、連れ合いと子どもたちをつれて、芝松へちゃんこを食べに行くことに。
こういうのって続くときは続くものだ。

「ちゃんこ」というのは、相撲取りが稽古部屋で食べる食事全般を指す言葉である。
つい、ちゃんこ=鍋と考えがちだが、相撲取りの常食するもの、これ皆ちゃんこ。
インド料理の総称がCurryであるのと同じ道理である。

で、この芝松、あくまで私見という断り書きつきで、「ちゃんこ鍋」はそれほど特質すべきものでもない。いや、決してまずくはないのだが、なんとなく僕はありがたみを感じない。

では何が良いかというと、鍋以外の「ちゃんこ」全般。
前述の焼き鳥(火勢の強い炭火で焼いているので、炭臭くて真っ黒だが、何故か旨い)、煮込みだとか、ガツの酢の物だとか、そういった一品料理が旨い。

というわけで、その日も、ガツの酢の物、焼き鳥などと共に、まずはカクテル。

うーん。祐天寺も捨てがたいけど、やはり緑ヶ丘も良い。
何が良いといって、決定的なのは「これ」。


http://www.shibamatsu.com/shinagaki.html

名物・力士味噌。
以前、再現を試みて自分で作ってみたが、やはり一味違うな、と。
店ではこれに、胡瓜のぶつ切りを何本か添えて出してくれる。
それだけでは飽き足らず、帰りがけにお土産に1パック購入して帰ったが、1週間ほどで食べ終えてしまった。

〆にちゃんこを1人前頼んで、満足して店を後にした。

祐天寺も、緑ヶ丘も、甲乙つけがたし。

さて、一方の祐天寺の店だが、先週、有給を取った際に、思いがけず2度目の訪問を果たすことができた。

しかも2度目は、焼き台前、という絶好のポジション。
常連のご隠居さんと大将の楽しい会話に、少しだけ混ぜてもらい(この辺の遠慮が大切)、どうやら2度目の訪問で、固体認識された様子。

なんだかんだでどこの飲み屋でも割りとすぐに馴染んでしまう自分が少し怖いのだが(苦笑)、今回は、カクテル2杯に、黒ビールを貰って、煮込みとレバ刺し、焼き物数本貰って、お会計は2千円台と上品にまとめることが出来た。

月一程度で通えたら、いいだろうなあ、と。
これ以上、巡回先を増やしたくない、と思いつつ、良い店をご教示いただいた方には、この場を借りてお礼申し上げたい。

嗚呼、書いていたらまた行きたくなって来た。
定時で会社を飛び出せば、駆け込みで入れたりするのだろうか。
検討の価値はありそうである。