門前仲町・宝家
もう4日も経ってしまったんだな…。
もちろんあの夜のことははっきり覚えている。
お酒だっていつものように記憶をなくすほど飲んでもいないハズ。
それなのに、あの夜のことを思い出そうとすると、なんだか大きな湖の対岸から、霧のかかった向こう岸の景色を見ているみたいな気持ちになるのです。
地下鉄の門前仲町の駅から地上に出て、清澄通りから一本裏手の道に入ると、19時少し前だというのに、やけに暗い路地の奥に、そのお店はありました。
軒先には「餃子」と書かれた赤い提灯。
見ましたよね?「餃子」って書いてありますよね?
いいんです。
それだけわかってくだされば。
お世辞にも真新しいとは言えない年季の入った店内ですが、隅々まで掃除が行き届いています。
予約の時間より少し早めに到着したので、テーブルに座って、黙々と何やら仕込んでいるご主人や奥さんの動きを観察しながら、ほかの参加者を待つこと暫し。
6名で予約している内の4名がそろった時点で、お店の奥さんが「とりあえずこれ、熱いうちに食べてて。3名分だから。また残りの方が来たらお出しするからね。熱いうちに」と言い残して、どんと無造作に皿を置いて行った。
グーフー!!
って、これはグフ。
じゃなくて。
はい来た、ドン。
グーフーのから揚げ!!
業界用語でいうところのグーフー。チャンネーがおねえちゃん、シースーが寿司、そしてグーフーがフグ。
内臓と頭を落とした小ぶりのフグがまるごとカリッと唐揚げに。
これが一人二尾。
最初のノルマです。
このころまだ穢れを知らない無邪気な僕らは、キャッキャ言いながらこのフグのから揚げを結構いいペースでビールと一緒に流し込み、ゲップでみんなにSAY HELLO!てな具合に、綺麗に平らげたところに、女将さんが第二のお皿をBOMB!
刺・し・盛・り!
これもキャッキャ食べちゃいますよねー。
「なにこれ、この鯛、良い具合にこなれてる!」
「頭のついてる海老の刺身、久しぶりに食ったー」
・・・なんてね。
そんな、はしゃいだ季節もあったよね。
「何ココ、餃子って、表に書いてあったよねー!?」
「ていうか俺たちまだビールしか頼んでないんですけどー」
(しっかり食べログで確認してから予約してるクセに)
はいはい、わかってて来たんですよ。
そうほら、こんな具合にお次にコイツが来ることだって、二十歳を過ぎた自慰行為だってこともわかってるつもりさ。750ライダー気取って風に向かってこう言うんだ。
餃子。
提灯に書いてあったもんね、餃子って。
刺し盛りのあとの餃子。
この唐突感。感動的なまでの投げっぱなしジャーマン感。
で、この餃子なんですが、手作りの超薄い皮(たぶん薄力粉)に、野菜多めの餡を包んでカリッと焼いたもの。
大振りな上に皮も薄いので、箸で持ち上げようとすると皮が破けてしまい、なんというか肉汁原理主義者みたいなひととは絶対にお友達になれないタイプの餃子ではありますが、蒸し焼きにされた野菜の甘みと、肉汁を吸った皮の旨みにこんがり焼けた外側のパリパリ感が加わって、これはこれで旨い。というかすごく旨い。
もともと、現在、日本で一般に「焼き餃子」と呼ばれているもののルーツは、鍋貼(ゴーティエ)といって薄い皮に肉を挟んで、てっぺんだけ軽く閉じて鉄板で焼いた屋台料理だ、という話はウー・ウェン先生のご著書で読んだこともあるので、多分そっちよりのアプローチなんだと思います。
てな感じで、Shout to the TOP!Shout!とか言って、実はまだメニューも半ばなんですね。ええ。容赦ない感じで、お次に現れたのは・・・
ホラ来た、ステーキ。
ステキなステーキ!
んでもって立て続けにドーンと
すき焼き!!
殆ど肉しか入ってません。
暦の上ではもう春なのに、どうですかこの、冬へと走り出しちゃった感じ。
タプタプした頬ピンク色に染めて サクサクガツガツ、ステーキとすき焼き交互に頬張りますよ。
もはや、この二品を同時に出す意味がさっぱり分からんけど、とにかく旨いんで仕方ない。
脳の揺れる2ショット。
ホント旨いんですが、この辺から、顔色の悪くなる参加者が…(苦笑)
でもね、冬へと走りだした750ライダーは誰にも止められないのです。ひゅいごお、ひゅいひゅいひゅいごお。
ほら、向こうの厨房で、ご主人が何か茹でてるよ…。やっぱりアレだよね、アレが出るんだよね?
ええ、その通り。
ラーメン。
みんなで泣きながら食べました。
いや、美味しかったんですよ。
帰り際、参加者一同口々にご主人と女将さんに感謝の言葉を伝えると、
ご主人「2月までに来てくれれば蟹が出せたんだよなあ。あとね、予約の時に言ってくれたらすっぽんも出せるから」
それ、予約した時に言ってくださいよ(笑)
と、いうわけで、すっぽん食いに行きませんか?連絡待ってます。