八重洲・通人の酒席「ふくべ」

近頃、ちょくちょく寄らせてもらっている。

お燗番のご店主自ら、菊正宗の樽酒(樽香をつけた生酒じゃなく、本当に杉樽に詰められたお酒)を注文ごとに一合枡で計って、燗をつけてくれるのを眺めているだけで豊かな気持ちにさせてくれる。

樽から枡に注ぐときに、結構盛大にお酒がこぼれるのが、ご愛嬌。

カウンターに居並ぶ諸先輩方は、現役半分、リタイア後のベテラン半分といった按配。
お年を召した方々は皆さん声が高くなりがちで、そのおかげか老舗に似合わず(苦笑)にぎやかな雰囲気。
静かなお店には静かなお店の、にぎやかなお店にはにぎやかなお店の、それぞれの流儀があればいい、と思う。

この諸先輩方が現役の最前線に立っていたころ、この店にもビジネス街のお店らしい活気が漲っていたことだろう。
若干ろれつの怪しくなった隣席の老紳士の庭仕事談義に耳を傾けながら、街にも、人にも、お店にも、年月は等しく降り注ぐのだなあ、とお猪口を口に運びつつ、往事の活況に思いを馳せてみたり。

肴はどれも、質素だけれど酒飲みの心をくすぐるものばかり。
お銚子を3本、つまみを2〜3品とっても会計は2千円そこそこ、とサラリーマンの懐にやさしいお店でもある。

しかしなんといっても、お燗番のいるお店というのは、本当に素敵だ。
個人的には久しぶりに顔を覚えてもらう程度まで通いたい、と思わせてくれるお店と出会えて、本当にうれしく思っている。