名物

「名物に旨い物なし」などと言って、見かけ倒しや評判倒れのモノを揶揄するたとえがあるが、実際はやはり名物と呼ばれるものには、それが名物となって然るべき、必然性というか蓋然性というものが備わっていて、口にすればああ、なるほどと膝を打つことになる。

 

今週のはじめ、一泊の大阪出張が入り出かけたのだが、社用とはいえ、旅先の楽しみと言えばやはりその土地の名物である。

僕にとっての大阪名物をいくつか挙げると、まず大阪市内に数軒あるニューハマヤの”ダブダブ”、次に坂町の天丼の”海老3つ”、そして極め付けに一芳亭の”しゅうまい”となる。

 ニューハマヤのダブダブとは、所謂、焼肉定食のスクランブルエッグ添えのことで、肉がダブル、卵がダブルで”ダブダブ”というとぼけた名前のメニューなのだが、最小サイズがダブダブ、店舗によって違いはあるが以後、トリダブ、トリプル、スーパートリプルとサイズアップする。*1

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この玉子と、キャベツの千切りと一緒に食べるポロポロした焼き肉、横に添えられた豚汁(?)、いずれも劣らぬ「メシどろぼう」揃いで、御櫃で出されるご飯がみるみる胃袋に収まってしまう大変恐ろしい定食である。

 

坂町の天丼は、法善寺横丁のすぐそばの小さな構えの天丼屋で、カウンター数席だけ、メニューも天丼(まれにかき揚げ丼なども出すとか)と赤だしのみ。

磨きこまれいつでも掃除が行き届いたピカピカの店内同様、大変潔い。

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この店の天丼は通常、海老天2本と、海苔の天ぷら一枚という構成になるが、注文時に「海老三つで」とお願いすると、1本多く乗せてくれる。

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もちろん、きちんと海老1尾分の料金は会計に加算されるが、この1本の差は大変大きく、ゆとりや豊かさのようなものが具現化した一つの有様だと思っている。

またこの黒々とした海苔の天ぷらの大変素朴な雅味たるや、他に似た食べ物を僕は知らない。揚げたてももちろん美味いのだが、タイミングによるとちょっと揚げ置きしてあるものが出てくることもあり、その湿気た感じもまた大変風雅である。

 

そしてどん尻に構えし一芳亭のしゅうまいは、池波正太郎も生前こよなく愛したという逸品で、特徴はやはりこの黄色い皮であろう。

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店のホームページの表記によると、戦後、小麦粉が手に入らないため薄焼き卵を代用したのが始まりだという。

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本店は難波にあるが、堺筋本町船場センタービル2号館の出店(?)のちょっと腰の低いテーブルに向かって、しゅうまいをつまみに小瓶のビールなどをやっていると、他のテーブルから、おっとりした大阪弁の他愛もないおしゃべりが聞こえてきて、なんだかとても良い按配だ。

 今回は一泊の出張だったので、3つ挙げた中で一芳亭のみを訪ねたが、鉄の胃袋と無尽の財布、それに大出力の基礎代謝があれば、たとえ日帰りであっても3軒すべて回りたいほど、気に入っている。

 

 

*1:ミックスといってこれにイカのバター炒めを追加したものを出す店舗もある。