だいりん

昨日は山谷の名店、大林酒場へ。

「おおばやし」と読んでいる人も多いようですが、「だいりんさかば」と読みます。

 

昨年、とある先輩を初めてこのお店にお連れした際に、「ここは平成の鬼熊酒場だ!」といたく感激されていたのが未だに記憶に残っています。

 

鬼熊酒場というのは池波正太郎先生の晩年の代表作「剣客商売」シリーズの(二)辻斬りで初登場して以来、主人公秋山小兵衛、大二郎父子などが贔屓とする本所・横網町にある居酒屋「鬼熊」のこと。

ドラマ(藤田まこと主演版)では鬼熊の店主、熊五郎を今は亡き大滝秀二が演じておられました。

この熊五郎が相当血の気の多い御仁で、ちょっとでも気に入らない振る舞いをする客には「ここは俺の店だ!気に入らねえ奴ぁ、煮て食おうが焼いて食おうが俺の勝手だ!」と包丁をふりかざして追い返してしまうような老人なんですが、安くて気の利いた肴を出す店として、「繁盛するわけでもないが、さりとて客足の絶えない」酒場という設定。

 

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この大林酒場のご店主も、客に包丁を突き付けたりはしないものの、暖簾をくぐった客にひと声かけるわけでもなくまずはキロリと一睨。さすがに鬼とまでは言いませんけど、ちょっと獅子舞とか節分の鬼のお面を思わせるような感じ。

以下、鬼熊じゃなかった、ご店主のご機嫌を損ねず、東京屈指の銘酒場を愉しむためのいくつかののルールを当方が把握できている限り列記します。

 

店内撮影禁止。「コイツ、パシャパシャやりそうだな…」という客や、実際に撮影しようという素振りでも見せようものなら、無言で「撮影禁止」と書かれた札をぬっと目の前に突き出されます。携帯電話に手を触れることや、カウンターの上に置くことすら許されません。

すでに出来上がってしまっている酔客はお断り。

実際、昨日も見ている前で一組、いい感じに出来上がったおっさん二人連れがけんもほろろに追い返されてました(苦笑)

団体客は4人まで。

これまた昨日、4人連れのグループ客の帰り際「団体は4人までだからね」とご店主が一言声をかけておられました。

冷房なし。

ルールじゃないかw
でもテレビはある。大抵ついてます。結構音量が大きくて、シーンと静まり返った店内に、テレビの音のコントラスト。

真夏はそれなりに暑いのですが、天井が高く厨房もカウンターやテーブルから離れた仕切りの向こう側にあるので火の気も遠く、窓や引き戸を全部開け放つと、とても良い風が通る造りになっていて、昨今の東京の異常な猛暑でもそれなりに快適に過ごせます。ご店主がぬっと差し出してくれる団扇を使い、中庭(?)を見渡しながら飲む焼酎ハイボールのうまいこと。

 冬は冬でカウンターの中で年代物のストーブの火が優しげにチロチロと揺れるのを眺めながら飲む焼酎ハイボールが格別です。

肴は刺し身に煮物、揚げ物、肉豆腐、煮凝り、卵焼きなどの定番の酒肴からご飯ものまで豊富な品ぞろえで、値段も手ごろ。

ちょっととっつき難いけれど、お客さん本位で考えられたたくさんの短冊メニューが厨房と客席の間を仕切る壁一面にぎっしりと並ぶ様は壮観です。

 

個人的にはついつい、居心地の良い融通をきいてくれるお店に通いがちな今日この頃なのですが、こちらを訪ねると、なんだか背筋が伸びるというか、ビクビクしながらあちこちの老舗酒場の暖簾を初めてくぐった30代初めの頃を思い出して、初心に立ち返ったような気持ちになれます。

 

と、つらつらと 書いていたら、なんだか無性に行きたくなってきてしまいました。

昨日は連れがいたのですが、やはりこのお店のカウンターには一人が一番しっくりくるような気がするのです。

うう、どうしようか…。

寄ってしまおうかな…うーむ。