チョッキ


近頃、ベストを愛用している。
なかでも心を捉えてやまないのは、狩猟用のハンティングベスト、と呼ばれる無数のポケットがついた形のものだ。
誠に格好良く、男っぽいアイテムだ。

きっかけは仙台にある、デザイナーが自らパターンから縫製まで行うセミオーダーブランドとの出会いだった。
新作の発表は、デザイナーが開設したブログで行われ、ほしい商品がある場合は、特約店に問い合わせて購入するシステムになっている。
東京にも特約店があるのだが、この年になって、明治通りをテクテク歩いて若者向けのお洒落なショップに行くのもなんだか場違いに思え、おそらくブランドと一番関係が深いであろう仙台のショップにメールで注文することにしている。

そのブランドでこれまで3着、他のブランドで2着、ベストを購入した。
計5着。平日毎日違うベストを着て、出勤できる計算だ。

そもそもなぜベストを着用するようになったかというと、理由は消極的なものだった。
営業で毎日人と会うわけで無し、いちいちシャツにアイロンを掛けるのが面倒だというだけのことだ。
洗いざらしのシャツでもその上から何かしらカバーしておけば、それほどよれよれ感も出ないだろう、という誠に安直な話である。

件のブランドを知る前は、ニットだのカーディガンだのの、羽織りモノ、被りモノにその任をまかせていたがのだが、さすがに今ぐらいの時期となってくると、薄手のニットでも邪魔になってくる。
そこで出会ったのが、そのブランドのベストだった。

着用するようになってみると、ベストという洋服がなぜ生まれたのか、実感することになった。

非常に便利なのだ。
もともと、狩猟や、林業などに携わる人のために生まれた洋服なので、まず、ポケットがたくさんある。
昔であれば、猟銃の散弾や、火種、道具の類をそれらのポケットに収納したのであろうが、現代でも、携帯電話、財布、鍵、iPodだのこまごました携行品があり、街中で生活するのにも誠に結構な按配なのだ。

ということで、毎日重宝している次第だが、周囲の女性の評判は芳しくない。

「確かに格好いい。けどね。。。」

もともとお洒落着ではないし、男好きのするアイテムである。もとより女性の理解など求めていないので、突き詰めて理由を考えることはしなかったのだが。
今日の昼休み思っても見ない形で、その理由を突きつけられた。

勤め先の入居している大きなオフィスビルの一階のコンビニエンスストア

近くの工事現場で作業をしていたと思しき作業着姿の男性と店内で行き会った瞬間、店内の光景がすべてスローモーションとなった。

作業着の男性は、薄手にタートルネックのTシャツに、白いメッシュのベスト。
ズボンはモスグリーンのニッカボッカという出で立ち。
ベストにもズボンにも、当然ポケットがたくさんついている。

対する私の服装。

白いノーアイロンのオックスフォード地のボタンダウンシャツ、茶色のハンティングベスト。
ズボンは、暗めのネイビーブルーのカーゴパンツ
ベストにもズボンにも、当然ポケットがたくさんついている。

なるほどね。

職業蔑視はもちろん私の意図するところではないこと付記しておく。念のため。